目を閉じて、海から吹く風を受けていた。
まるで世界が、彼だけのために静かになったようだった。
その瞼の奥にあるものは、懐かしい声だったのかもしれないし、
ただ肌に触れる潮の温度だったのかもしれない。
一切の音が遠ざかるとき、彼の存在は輪郭を失って、
波と風と光の中に、すうっと溶けていくようだった。
静かな時間ほど、体の輪郭はくっきりする。
この風は、僕のことを知っている気がした。
でも、確かにそこにいた。
その姿が焼きついて離れないのは、
きっと“誰かに見つめられていた”という確信のせい
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